FM三重『ウィークエンドカフェ』2021年5月22日放送

今回のお客様は、『NPO法人セイラビリティ三重』の会長、強力修さんです。
「セイラビリティ」とは、「sailing(セイリング)」と「ability(アビリティ)」が一つになった造語。
年齢や、障がいがある人もない人も関係なく、一緒になってセーリングを楽しむ活動が「セイラビリティ」です。
約50年前にイギリスで始まりました。 
日本では2000年に大阪、三重県では2002年、伊勢市で強力さんがオーナーを務めるマリンレジャー施設でスタートしました。

動の原点は『Sailing for everyone』

我々の活動の哲学は『Sailing for everyone』なので、すべての人にセイリングをというものです。
よく間違えられるのですが、障がい者の人たちに技術支援を促すという目的だけではなく、障がい者も健常者も、すべての人が一緒になって楽しんだりレースをする。
そしてそれぞれのクラブで日夜トレーニングを積んで、大会に出場したり。
しかしレースだけに集中しているのではなく、伊勢の場合だと夫婦岩まで海の遠足などして楽しんでいます。
ガチガチのレースだけを目指しているのではなく、要は『みんなで楽しもう』というのが原点です。
活動しているのは全国でざっと10ヶ所。
全国大会レベルになっているのは6団体くらいですね。
『セイラビリティ三重』というのは、実は3つの団体が1つになった名称なんです。
伊勢・津・河芸がそれぞれ普段は単独で活動していて、大会を三重でするときは『セイラビリティ三重』として受け入れます。
それから国内や県外遠征、海外遠征に行くときには『セイラビリティ三重』として出場します。
同じ県で3つのクラブがあるのは三重県だけです。
ある意味、セイラビリティの活動の先進県だと言えます。

 

全性に優れた小型ヨット『ハンザ』

『Sailing for everyone』。
これがオーストラリア人のクリス・ミッチェル氏が考えた哲学であり、『ハンザ』ヨットがこれを実現できる道具としてあるわけです。
クリス氏が考案・設計したのが、セイラビリティに欠かせない、小型のヨット[
『ハンザ』なのです。

日本で一番乗られているヨットが『ハンザ』の2.3。
これは長さで、2.3mという意味。
一人乗りでも二人乗りでもできます。
ハンザの2.3には、『キール』という水中に1mくらいの長さで20kgくらいの重りがぶら下がっています。
それがあるがために、傾いてもすぐに戻ります。
強い風が吹いても、その重りがあるので体勢を立て直すことができます。
それから簡単にセール(帆)を縮めることができます。
強い風が吹いてきたら帆を小さくすれば、その分、風の影響を受けにくくなって、傾きも大きくなりません。
多少傾くことはあっても、船の中に海水が入ってきて、万が一いっぱいになったとしても沈みません。
本当に安全な船です。
それがあるから、どんな人でも乗れるんです。
地元の大湊小学校の6年生が夏休みにキャンプをするのですが、7〜8年前からその1番目のイベントがハンザヨットに乗って楽しむというもの。
全員が喜びます。
なかなか普段経験できないことなので、物珍しさもあるけれど、やっぱり風に吹かれて海の上で。
しかも自分が思ったように簡単に操作しながらできるというところに、とても魅力を感じるようです。
自分で思ったところに行ける、エンジンもないのに風を頼りに。
ちょっと技術を覚えたら、船を操ることができるというのは、小さなお子さんにも障がい者の方にも楽しんでもらえるスポーツだと思います。

 

会競技になることで、障がい者でもヨットに乗れることを知ってもらえる

『ハンザヨット』を使った『ハンザクラスセーリング』が、今年10月に開催される 全国障害者スポーツ大会『三重とこわか大会』でスポーツを広く普及する観点から行われる『オープン競技』に決定しました。
国体では初めての、障がい者セーリング競技です!

基本的に、障がいを持った人がヨットに乗るとは考えられないと思います。
単に、とこわか大会、障がい者スポーツ大会で競技をするというのが目的ではなく、それをすることによって、全国の障がい者「僕たちもヨットに乗ることができるんだ」とわかってもらいたいのです。
そして実際に乗ってもらえれば、間違いなく楽しいことだとわかるので。
そういう意味で、三重の大会が起爆剤になればと思い、競技できるよう努力しています。
おかげさまで、正式競技ではありませんが『オープン競技』としてスタートできたことは大きな意義のあることだと思います。
10月16.17日が津のヨットハーバーでとこわか大会を開催します。
今すでに、かなり障がい者の方の申し込みが来ていて、とても幸先が良いスタートです。
嬉しい悲鳴を上げています。
35艇、競技のためのヨットを準備していますが、ひょっとすると足りなくなるのかなと。
それだけ反響があったのだと捉えています。

 

ランティアインストラクター養成への取り組み

私たちがセイラビリティ活動を行っている中で、新たな考えを持ち始めたのが『ボランティアインストラクター』です。
定年で、いよいよ仕事を離れ、自分の余生を考えたとき、ただ単に生きていくのではなく、自分が生きてきた証として、世の中の役に立ちたいと。
ふどんな形にしろ、そういう気持ちを持つ人はたくさんいると思います。
けれど、役に立つために何をしようかわからない人もたくさんいます。
我々がボランティアインストラクターを考えたのは、まず、普通のことをなにかしらしようと思う人はいますが、ヨットに乗ろうと考える人はいないと思いました。
なぜならば、敷居が高い、危ない、などの理由で、高齢の人はしようとしないからです。
実はそれができるんですよ。
まずは安全。
そして乗ったら間違いなく好きになるから。
そうすると、どんどんヨットを楽しむようになる。
その楽しみを、他の人に教えてあげる。
そうすることによって社会貢献ができる。
そのためには私どもが持っているハンザヨットを使ってもらう。
私はこの素晴らしいセイラビリティ活動の中で、ボランティアインストラクターというのは意義のあることだと思っています。
しかしヨット自体が、障害者健常者問わず、日本ではあまりメジャーなスポーツではないので、我々の活動を通して日本全体にセイリングの素晴らしさを広められたらと思います。

嬉しかったことはたくさんあります。
印象に残っているのは不登校だった女の子が、ヨットの小さな大会で優勝してからすべてのことに目覚めたというのか。
今は、オーストラリアに留学しているそうです。
または障がいを持っていて80歳近くの人がヨットに乗っていて、「これで僕はリハビリができている」と言ってくれました。
小さな成功体験とか、ちょっとしたきっかけで人間は変わることができると、感じます。